コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2014年03月16日

小松洋支 2014年3月16日放送

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母と子

          小松洋支

その日はよく晴れていて、電車の中にも明るい陽が射しこんでいました。
お昼近い車内はすいていました。
こんなゆるやかな時間の流れている各駅停車の窓から
沿線のなんでもない風景を見るのが好きです。

線路に近いところまでせまっているアパートの2階に、
ミッキーマウスのタオルが干してあったり。
昭和のたたずまいのパン屋さんの前で、子どもが縄跳びをしていたり。
「川をきれいにしよう」という横断幕が、小さな橋にかかっていたり。
そういうのを見るとなんだか安らかな気持ちになるのです。

とある駅に着いたときのことでした。
乗りこんできたふたりが、向かいの席に座りました。
「あ、親子だな」と思いました。
面ざしが似ているのです。
母親はやせていて顔も細く、子どもは頬がふっくらしていますが、
目もとから鼻にかけてのつくりが、そっくりです。

電車が動き出すと、母親は巾着袋を開けてドーナツを取り出し、
娘に渡しました。
娘はドーナツを持ってしばらく眺めていましたが、
ふたつに割って半分を母親に差し出しました。
母親は笑ってそれを受け取りました。

けれども母親はそのドーナツを手にしたまま、
娘が食べるのを見守っていました。
娘が食べるように促しても、うなずくばかりでした。

「お母さんも食べな」
娘が何度目かにそう言ったとき、
母親はようやくドーナツの半分をふたつに割り、
時間をかけて4分の1を食べました。
でも残りはずっと手に持っていました。

やがて乗り換えの駅に着きました。
ホームに降り立って、動き出した電車をふりかえると、
窓ごしにあの親子が目に入りました。
ふたりは黙って、でもにこやかに正面を向いて座っていました。
ドーナツの4分の1は娘が手にしていました。

母親は70歳、娘は50歳くらいに見えました。

まだ冷たい風の中に、かすかに春の匂いがするようでした。


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2014年03月09日

宮田知明 2014年3月9日放送

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右利きに矯正された男

        宮田知明

私は、今でこそ右利きであるが、
こどもの頃は左利きだった。

食事のときは、母に、左手を輪ゴムでグルグルに巻かれ、
使えないようにされた。

欲しかった野球のグローブは、父が買ってきてくれた。
左利き用だと思ってはめてみたら、うまくキャッチできない。
なんと、右利き用・・・。
これも、右利き矯正のための両親の作戦だったのだろう。

特別、運動能力が低かった訳ではない。
でも、野球は上手ではなかった。
サードからファーストまで、ボールが届かないのである。
左手で捕って、左手で投げられたらいいのに、と思っていた。

体力テストで悔しい想いをしていたのは、遠投だった。
まず、右手で投げてみる。次は左手で投げてみる。
飛ぶ距離はほとんど同じ。クラスの平均くらい。
右手で投げた距離と、左手で投げた距離の合計で競うという競技があったら、きっとクラスで1位になっていたことだろう。

ボールを投げた後、あれ、いま左手で投げたな、
と気づくこともあった。
矯正されたとはいえ、左手も案外使うことができた。
左利きのままだった方が、もっと能力が発揮できたのではないか。
両親を恨んだこともあった。

そう思っていたある日、隣の席のクラスメイトから言われたことがある。
「お前、左手で消しゴム使えて便利だな」

右利きの人は、消しゴムを使うとき、一旦、鉛筆を置き、
そして消しゴムに持ち替えて消して、また鉛筆を持つ、
という大変効率の悪い動作をしているのである。

その点私には、鉛筆を右手に持ちながら、左手で消しゴムが使える、
という類い稀な技術が備わっていた。

そして、この能力は中華料理屋のアルバイトでも
活かされることとなった。
チャーハンをはじめ、様々な炒め物を作る上で、
重たい中華鍋をふり続けるのはかなりの腕力が必要だったが、
私は全く疲れをしらなかった。
右でも左でも、器用に鍋をふれるのである。
その能力が、店長の目に留まった。

何の才能もないと思っていた私。左右どっちの手もうまく使えることに
まさかこんな恩恵があるとは。
私の才能を高く買った店長は、私に料理の英才教育を施した。
そして、ある日こう告げたのだった。
「この店を、継いでくれないか・・・」


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2014年02月23日

上田浩和 2014年2月23日放送

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わたしにも分からないんです。

             上田浩和

銃声がぱんぱんぱんって3回したんですよ。
そしたらパンが三つあったんです。そこに。
メロンパン、あんぱん、クリームパンの順番で。右から。
いや、あんぱん、クリームパン、メロンパンの順だったかな。
どっちでもいいんですけど。
クリームパンから食べたんですけど、
おいしかったですねえ。クリームの味がして。
あんぱんはあんの味がして、
メロンパンはメロンパンの味はしたんですけど、
メロンの味とはちょっと違うと思いました。
ちょうどヤマザキ春のパンまつりが始まった時期だったから、
デニッシュボウルもらえたんですけど、
その皿で食べたものはなにかといえば、
シチューなんですよ。パンじゃなかったんですよ。
なんだか夫に抱かれながら、
昔の恋人のこと思い出してるような背徳感から、
ヤマザキさんごめんなさいごめんなさいって、
メッカの方にむかって土下座してたら、
そこに銃声を聞きつけたという警察官が
自転車にのって現れたんです。メッカの方から。
「いま銃声が聞こえませんでしたか」とたずねる警察官が、
わたしには神様が警察官の格好をして
怒鳴り込んできたように見えて、答える前に逃げ出したんです。
逃げられたら追いかけたくなるものですよね。
それはカレーパンのカレーが辛いのと同じくらい明確なことです。
ぼくはあっさり捕まえられました。
捕まえられると抵抗したくなるのが人ですよね。
それはチョコチップメロンパンのチョコチップが甘いのと
同じくらい明確なことです。
わたしは隙をついて警察官の腰から拳銃を奪いました。
そしてなんでか知らないけど、
それで自分のこめかみを打ち抜きました。
たぶん神様に捕まるくらいなら死んで閻魔様の前に出たほうが
まだましだと咄嗟に判断したんだと思います。
ぱん!とひとつ銃声がしました。
そしたらわたしの頭のなかにパンが一つ現れたんです。
なんのパンだか分かります?
二食パンです。
左がクリームパンで、右がチョコレートパンです。
つまり、左脳がクリームで右脳がチョコになったってわけでして、
右半身をクリームに、左半身をチョコに制御されてる気分が
どんなものか分かりますか?
いやあ、それがねえ、わたしにも分からないんです。


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2014年02月16日

細川美和子 2014年2月16日放送

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ふじさん

          細川美和子

ふじさんは思っている
みんな、よく写真をとるなあと

あっちからも、こっちからも、
近くからも、遠くからも、
一日中、ひっきりなしに
だれかがふじさんにむけて
カメラをかまえている

ときどきは、高い空の上、飛行機の窓からも、
カメラをかまえているひともいる
よじよじ、のぼってきては、
ずいぶん接写して帰っていくひともいる

写真をとったみんなは、うれしそうだ
となりのだれかに見せたりしている
とおいだれかにメールしたりもしている

日本人は写真が好きだ
日本人はメールが好きだ
日本人はふじさんが大好きだ

だからふじさんは、
今日もできるだけじっと
動かないようにしている
写真にぶれてうつったりしないように
だれかに悲しい思いをさせないように


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2014年02月09日

栗田雅俊 2014年2月9日放送

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        栗田雅俊

「ぱ」を発見した男に著作権が与えられたのは24年前のことだった。
ぼくは過去に一度だけ、彼にインタビューをしたことがある。

「それは偶然だったのさ」と彼は言った。

「あの日、私は、くちびるを真一文字に結んでいたのさ。
まるで泣きべそを我慢する子どもみたいにさ。
そのときふと、くちびるに蚊が止まったのさ」
「蚊ですか」
「そう。蚊さ。ぼくは蚊を追い払おうと、
口の中の空気を破裂させるように息を解放したのさ。すると…」
「あの音が出たんですね?」
答えるかわりに穏やかな笑みを浮かべ、彼は言った。
「神のギフトは、予想もできない方向からやってくるのさ」。

あんなもの誰でも思いつくと人々は言った。
世紀の発明というものは、往々にしてシンプルに見える。
だが、シンプルな結果として、彼は世界有数の億万長者になった。

それ以降、「ぱ」をつかうたびに、
世界は、男に対し、莫大な著作権使用料を
支払わなければならなくなったからだ。

あるタレントは「きゃりーみゅみゅ」に改名を余儀なくされた。
昔はなんていったっけ。
気軽にその名前を呼ぶことさえ、いまは叶わない。

かつて「ぱっぱらぱー」という悪口もあった。
今その言葉を発することができるのは、富裕層の人々に限られている。
「ぱっぱらぱー」は、むしろ高貴さを表す単語として
広辞苑にものったという。

いちばん慌てたのはパチンコ業界だった。
なにしろ「ぱ」を看板として掲げるだけで、
目玉が飛び出るような額が飛んでいくのだ。
しかし彼らに「ぱ」を外す選択肢はありえなかった。
理由は言うまでもないだろう。
これをきっかけに業界は衰退の一途をたどった。

悲しいことが、ひとつだけある。
小さな子供が父親を呼ぶときでさえ、
多額の料金が発生するようになってしまったことだ。
だが、たとえそれがどんなに狂ったルールに見えようとも、
価値あるものに対価は支払われるべきだというのがぼくの考えだ。

この放送で使われた「ぱ」の数は12。
ぼくも、かなりの金額を支払わなければならないだろう。
だが価値あるものに対価は支払われるべきなのだ。


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2014年01月26日

上田浩和 2014年1月26日放送

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ティアドロップ

       上田浩和

らっきょうは、ティアドロップ型のサングラスをかけました。
鏡を見ると、我ながらキマッてます。
革の手袋をはめて、ピストルを握りました。
これから、紅しょうがの事務所を襲いにいくのです。
しかし、ピストルのひんやりとした感触と
ずしりとくる重量感にすこし怖くなり、
これで撃たれる紅しょうがのことを思うと
すこし不憫になりました。
ピストルをいったん神棚に戻すと、
あらためて士気を高めるために、
西部警察のDVDを見ることにしました。
らっきょうは、西部警察の大ファンです。
いつも自分が主役のカレーの隣で脇役を演じているからでしょうか、
特に主役の大門に心ひかれます。
これからやくざなことをしに行くのに、
警察のドラマを見るなんてとんだ矛盾ではありますが、
そこは、しゃりしゃりとした食感が命のらっきょうです。
ちょっとした矛盾くらいならあっさり噛み砕いてしまいます。

もともとらっきょうには、紅しょうがにはなんの恨みもありません。
新しょうがに頼まれただけなのです。
新しょうがは、蕎麦屋で見かけた
「紅しょうが天蕎麦はじめました」
という貼り紙が許せませんでした。
新しょうがも紅しょうがもむかしは、
同じ食卓の賑やかしだったくせに、
いまでは主役級の扱いじゃないか!
天ぷらじゃなく天狗になりやがった!
らっきょうの事務所を訪れた新しょうがはそういって、
机をたたき、怒りをあらわにしました。
新しょうがの気持ちがよく分かるらっきょうは、
その依頼を引き受けることにしました。

西部警察のオープニングが流れたあと、
爆破につぐ爆破を見ているうちに、
先ほどまでのためらいは消え、
みるみるうちに闘争心がよみがえってきます。
紅しょうがの体が弾丸によって木っ端みじんにくだける姿を
想像するとわくわくしてきます。
新しょうがには悪いけど、新しょうがの依頼のおかげで、
自分が主役になれるような気がしてきます。
神棚からピストルを降ろし、さぁいくぞ、と立ち上がった瞬間、
黒電話が鳴りました。
相手は、新しょうがでした。新しょうがは、
あれから考えが変わったのです、と言いました。
紅しょうが天蕎麦とは言っても、主役は蕎麦ですものね。
紅しょうがが主役ではないのですね。
だから、この話はなかったことにしてください。

受話器を置いたあと、らっきょうはサングラスをとりました。
結局、紅しょうがも新しょうがもらっきょうも、
主役にはなれそうにありません。そういう運命なのでしょう。
天井のしみを見上げながら、らっきょうは少し泣きました。
みなさん。ご存知でしょうか。
岩下食品のらっきょうや新しょうがや紅しょうがが
甘酸っぱい理由を。それは、彼らのなかで、
いつか食卓の主役になりたいという甘い夢と、
それが叶うことはないすっぱい現実とが
まじりあっているからなのです。


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2014年01月19日

細川美和子 2014年1月19日放送

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「ばあちゃんの教え」

         細川美和子

あたし、もうきめた
こんどこそテツヤとわかれる
それいうの、何回目―?
ってあんたがいいたいのはわかるよ
でも、こんどはマジだから
もう、気持ち、プツンときれちったから
なにがあったのって?うーん・・・それがさ・・・
あいつ、いままで高いプレゼントなんて、
なにひとつくれなかったし。
つうか家賃もあたしが払ってたし。
休みの日も、どこにも連れてってくれなかったけど。
なんか、時々、買ってきてくれたんだよね、、、
岩下の新生姜。
女はカラダひやしちゃいけねーなんつってさ。
生姜食べてあったまれーって。
なんか、それ、あいつのばあちゃんが
しょっちゅう、ゆってたんだって。
だからさ、夏はふたりで
ビールを飲みながらさ、ポリポリ食べて。
冬はコップ酒とさ、ポリポリッて。
けっこう地味に、うれしかったわけ、それが。
家族っぽいつうか、家族の行事うけついでる感とかさ。
でもさ、今度の浮気相手の部屋つきとめて、
のりこんだときに、みちゃったんだよ。
ふたりで岩下の新生姜食べてるの。
あーっつって。・・・ちから、ぬけたよね。
ちからじゃないか。なんか、もっと大事なものがぬけた。
いつもなら決めるビンタも、決めずに帰ったよね。
だから、もういいんだ。
あいつのばあちゃんと新生姜が、教えてくれたんだよ。
こいつは、ろくなもんじゃねえよーって。
あったかくして、自分を大切にしなーって。
なんか、あたし、そうおもうんだ。


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2014年01月12日

小松洋支 2014年1月12日放送

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そんな日

          小松洋支

「岩下の新生姜を買っておいてください」
というメモを残して家を出てから、
あの人は2日帰ってきていない。

そんなに心配してはいないのだけれど、
あの人が行きそうなところを、いくつか回ってみた。

手始めに、デパートの屋上。
ここからは町の四方がぐるっと見渡せる。
冬は空気がつめたく澄んで、
北の山並の輪郭がくっきりとして、
なんだか視力があがったように感じる。

屋上には熱帯魚の売り場もあって、
アラジンのランプの精が持っていそうな
「大きな刀」に似た銀色のアロワナを眺めたり、
水に浮かんでいるホテイアオイの、
あのぷくっとふくれた部分には何が入っているのだろうか、
などと考えているだけで時間を忘れる。

それから、川沿いの小学校に回る。
放課後の子どもたちが、かん高い声を上げて校庭で遊んでいる。
「高オニ」とか「だるまさんが転んだ」とか、
自分たちが子どもの頃やっていた遊びが
いまでも続いているのにちょっと感動する。
それにしても
鉄棒って、すっごく低かったんだなあ。
ジャングルジムって、こんなに小さかったんだなあ。

その次は、商店街のはじっこの「弥太郎」という焼鳥屋さん。
お昼から、夜中の3時までやっている。
皮とレバが絶品で、いつ行っても混んでいる。
アメリカ人のデイビスという常連客がいて、
いつも表の丸椅子に座っているので、
マルイス・デイビスと呼ばれている。
店の奥を覗きこむと、白髪のご亭主が
炭火の前で黙々と串をひっくり返している。

猫がよく集会を開いているバス通り裏の公園にも行ってみた。
ベンチに老犬を連れた老人がひとり。
どちらも置物のように動かない。

いないなあ。
どこへ行ったんだろう。

あきらめて家に帰ると、あの人があぐらをかいて
ビールを飲んでいた。
「どこ行ってたの、2日も?」
そう言いながら冷蔵庫を開けて、
あの人は岩下の新生姜を出してくる。
「ほら、買っといたよ、これ」

それから、お皿にハムと新生姜を並べ、ふたりでビールを飲んだ。

とくに何もしてないけど、生きてるだけで楽しい。
そんな日だった。


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2013年12月29日

上田浩和 2013年12月29日放送

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サンタさんの年末年始

            上田浩和

サンタさんは、朝の空を見上げていました。
数日前のイブの日の夜、あの空をトナカイと一緒に駆け回り
子供たちにプレゼントを配ったサンタさん。
その疲れも癒えました。今日はよく晴れそうです。
サンタさんは洗濯をすることにしました。
おなじみの上下の赤い衣装と、
その下に着ていた下着とくつ下を大きな金だらいにいれると、
ごしごしごしごし。泡にまみれながら、ごしごしごしごし。
よーくすすいだところで、あ!
サンタさんは小さな悲鳴をあげました。
白かったくつ下が、ピンクになっているのです。
パンツもです。どうやら赤い衣装の赤が色移りしたようです。
それだけではありません。
勢い余って自慢のふさふさのひげも一緒にごしごししたみたいで、
ひげまでがピンクになっていました。

午後、サンタさんは奥さんに引っ張られて、
年の瀬でにぎわう町に買い出しに出かけました。
店から店に移る途中、目をきらきらさせた何人もの子供たちに、
「ありがとう!」や「あれ欲しかったんだ!」と
声をかけられてサンタさんはうれしそうでした。
家に帰ると、さっそく奥さんはキッチンにこもりました。
サンタ家では、おせち料理を作るのが年末の恒例行司なのです。
といっても、サンタさんにできることといえば、
奥さんの邪魔にならないようにこたつでじっとしているか、
トナカイの散歩くらいですけどね。

そして迎えたお正月。
おとそで顔を赤くした奥さんが聞きました。
「そのピンクのひげはなんですか?」
サンタさんは事の次第を話しました。ところがそれを無視して
「存在感をアピールしてるつもりですか」と奥さんは言います。
ひげがピンクなのは、
サンタはいないと決めつけている世の中の大人たちに対する
アピールだと奥さんは思っているようです。
「いやそういうわけでは」とサンタさん。
「必死なんですね」と奥さん。
「だから違うんだって」
「早めに春が来たようにも見えて悪くはないですけどね」
「あ、そう?」
「それか」
「それか?」
「ただのすけべえろじじいに見えます」
「すけべえろじじい…」
「大人のおもちゃでも配るような変態サンタです」
変態サンタ。
大人たちにも自分がいることを認めてほしいサンタさんは、
それもありかなあと思いながら、
重箱のなかの数の子に手を伸ばしました。
テレビでは駅伝をやっていました。


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2013年12月22日

細川美和子 2013年12月22日放送

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ネコの野望

          細川美和子


ネコが干支になったらすてきなのに。
と、ネコは思った。

なにしろインターネットで
流通している動画や画像の
3分の1は裸の人間、
3分の2はネコだと、
聞いたことがある。

ネコが大好きな
人間のほうが多いのだ。
それなのになんでイヌ年はあって
ネコ年はないんだ。

神社はネコグッズで繁盛するだろうし、
すでにちまたに
あふれているネコグッズも、
ご利益がありそうだと
再ブレークするだろう。

年間10万匹以上殺されている
仲間の野良たちも、
干支となれば大切に保護されるだろう。
泣きながら殺処分しなければいけない
自治体の職員のココロの負担もへる。

年をとったネコのほうが
さらにご利益があるなどと
適当なうわさをつければ、
引き取り手のない年寄りたちも
もらわれていくにちがいない。

そもそも干支をふやしていいのか、
という議論もけっこう。
おおいにしてほしい。
特番のネタができる。

暦や占いやカレンダーに
さまざまな変更点が発生することで、
日本経済はかえって活性化するだろう。

ネコ年にこどもをうみたい、
なんてネコ好きな人もあらわれて、
少子化対策にも役立つかもしれない。

でもこれ、
どこに提案すればいいのかなあ、、、
ネコは思った。


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