コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2014年09月28日

上田浩和 2014年9月27日放送

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503

             上田浩和

その日は、
高校に入学して最初の実力テストの結果が出た日で、
クラスメイト数人がりゅうくんを囲みなにやら騒いでいた。
「こいつ503番てよ」「全部で何人だっけ」
「503人」「最下位だ。すげーね」
そう言って囃し立てるクラスメイトたちの真ん中でりゅうくんは、
むしろ誇らしげに、芸人が笑いをとったときの嬉しそうな表情と似た笑みを浮かべていた。その頃、まだ友達がいなかったぼくは、
この人なら話しかけやすそうだと思い、
りゅうくんが一人になるのを待って話しかけた。
「りゅうくんて、503番だったと?」
りゅうくんと話したのは、そのときがはじめてだった。

りゅうくんは503という数字に縁があった。
りゅうくんが503番という学年最下位を
とってからしばらくすると、
テレビでエドウィンのCMが流れはじめた。
モンゴル草原を作家の椎名誠が馬にまたがり
疾走するだけの内容だったけど、そのなかにモンゴル人の子供が、
椎名誠に「シーナサンヨッホ」と呼びかけるシーンがあった。
おそらく「椎名さんも行こうよ」と言っていたのだと思う。
それのどこが面白かったのか分からないが、
りゅうくんは何度も何度も真似していた。
弁当を食べながらシーナサンヨッホと言いご飯粒を吹き出し、
上履きにマジックでシーナサンヨッホと書いては笑い、
授業中に当てられたときにもシーナサンヨッホと叫んで
ブルドッグ顔の公民の先生に怒鳴られたりしていた。
そして、そのCMのなかで椎名誠がはいていた
エドウィンのジーンズの型番もまた503だった。

そんな不思議な繋がりのおかげで、
ぼくのなかでは、りゅうくんと言えば503、
503と言えばりゅうくん、ということになっており、
たまにりゅうくんのことを思い出すことがあると、
りゅうくんはいつも503の真ん中の0の中から
笑顔をのぞかせてこちらに手を振っているのである。


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2014年09月21日

小松洋支 2014年9月14日放送

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ナフタリン
         
        小松洋支

あたりはうす暗かった。
銀色の細い柱が等間隔で何本も立っていた。
遠くのほうの柱は、ぼうっと白く、
月の光に照らされているように見えた。

柱の表面はなめらかで、触れるとひんやりと冷たかった。
足がかりになるような凹凸(おうとつ)はどこにもなく、
登るにはかなりの困難が予想された。

柱の上の方から、かぐわしい匂いが漂っていた。
空腹を誘うような、なんともいえず甘美な匂いだった。
見上げると、柱の尽きるあたりを黒い影が覆っていた。

柱から柱へとめぐって分かったことだが、
どの柱の上にもそれぞれ黒い影が覆いかぶさっていて、
ちょうど大きなパラソルが並んで立っているような具合だった。

影の形は柱によって微妙に異なり、
それぞれに固有な模様があるようにも思われた。

とある柱の上からは、ことによい匂いが降りしきっていたので、
その魅力に抗うことができず、柱を登る決心をした。

最初は自分の背丈くらいまで登るのが精いっぱいだった。
登っては滑り落ち、登っては滑り落ち、
時には仰向けに倒れて、しばらく起き上がれないこともあった。

けれども匂いの吸引力が本能に働きかけ、
何十回も失敗を繰り返したのち、
気がつくとなんとか柱の上の方までよじ登っていた。

目の前に、影の実物があった。
それは光沢のある黒い絨毯のようだった。
雲形定規に似た不規則な形をしており、
下からでは分からなかったが、
小ぶりな赤い模様がひと所に弧を描いて並んでいた。
むせかえるような匂いに、目がくらみそうだった。

そのとき、夜が一瞬で明けたかのように、あたり一面が明るくなり、
非常に巨大な何かが近くに降りてきた。
未曾有の恐怖に身を固くしていると、それはまもなく去ってゆき、
またもとのうす暗い世界に戻った。

だが、すぐに、何か違う種類の匂いがたちこめてくるのに気づいた。
揮発性の強烈な匂いだった。
頭の芯がぐらぐらして、思わず手を離した。
あとほんの少しで届くところだった黒い影が
夢のように遠ざかって行った。
そして意識が遠のいた。

翌日、少年はまた標本箱を開けてみた。
クロアゲハの標本の下で、
ごく小さな甲虫が足を縮めて死んでいた。
昨日入れたナフタリンの匂いが鼻をついた。


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2014年09月14日

太田祐美子 2014年9月14日放送

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ポトラッチ

        太田祐美子
        
ポトラッチ。
贈り物をされたとき、そのお礼として、
さらに高価なものをお互いに贈り合い続ける。
とある民族の儀式のことだ。

たとえば。
ある村の酋長が、隣の村の酋長の家に招かれたとき、
手みやげとして魚の干物を贈る。
そんなフランクな感じでポトラッチは始まる。

隣の村の酋長は、感謝の気持ちを示すために
いただいたものより高価なものをお返ししたいと考える。
そして、干物のお礼に砂糖を贈ることにする。

そのお礼に、砂糖より高価なもの。ヒグマの毛皮が贈られる。
そのお礼のお礼に、銅のネックレスを贈る。
そのお礼のお礼のお礼として、ついに現金が贈られる。
酋長たちは負けず嫌いだったんだろう。
ポトラッチはさらに加熱する。
現金のお礼は、現金より高価なもの。
なんだ、なにがいい。
隣の村の酋長は、最愛の妻を贈ることを決意する。

人妻を贈られた酋長は、自分の家を焼き払う。
気が狂った訳ではない。大切なものを贈るどころか
それを破壊することで、返礼のさらなる高みを目指そうとしたのだ。

そのお礼は、もうひとつしかなかった。
ポトラッチ。最後には、自分の最も大切のもの。
自分の命すら差し出すこともあったという。


つきあって3年。
ピアス、財布、ネックレス、バッグ。
お互いの誕生日にプレゼントを贈り合ってきた。
そろそろ小箱がパカッとあいて、
暗黙の了解的に左手の薬指につけるアレが
贈られる頃合いなんじゃないの?
そう思っていたんだと思う。

彼が私にくれたものは、靴だった。
かわいいけど、うれしいけど。
私は大学の人類学の授業で学んだ、
ポトラッチのことを思い出していた。


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2014年08月31日

上田浩和 2014年8月31日放送

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8月のりゅうくん

        上田浩和

シャープペンの先端は開いた大学ノートの上を、
なめらかに動いた。
縦にすっと走った直線は、
左に折れるとそのままヘアピンカーブを描き少し行くと止まる。
その「しんにょう」のような形の中に収まるように、
小さな楕円を三つ。
うち二つには円の内側に点をひとつずつ置く。
次にしんにょうの右上をカタカナのアのような形で閉じると、
先ほどのヘアピンカーブのあたりから右に直線を引く。
仕上げに、楕円の横のスペースでぐるぐるぐると、
一流のフィギュアスケーターのように4回転半、
それを二回繰り返してシャープペンは動きを止める。
そして、紙の上には忍者ハットリくんが残る。
そばにニンニンと書く。ハットリくんの口癖だ。
それを書くことで、ハットリくんらしさはぐっと上がる。
書かなくても、それがハットリくんであることは、
誰の目にも分かるのだが、
それほどそのハットリくんの完成度は高かいのだが、
相田みつをが「にんげんだもの」と書いたあとには、
必ず「みつを」と書くように、
ぼくらはハットリくんを描いたあとには
「ニンニン」と書かずにはいられないのだった。

ぼくらとは、ぼくとりゅうくんのことだ。
高校1年の頃、数学の教科書を誰かに貸して、
それが誰だったかを忘れてしまったりゅうくんは、
数学の授業のたびに席をくっつけてきた。
いちおう二人のあいだに教科書を置いてはみるのだが、
りゅうくんに見る気はなく、ぼくのノートに手をのばして
ただひたすらハットリくんを描き続けるだけだった。
ぼくも描きやすいようにと、
りゅうくんのほうにノートをずらしてあげたから、
ハットリくんはノートの上でのびのびと分身の術をくり返していた。
ぼくも一緒になって描いた。

ある日、できるだけ小さなハットリくんを
描いてみようということになった。
筆箱のなかのいちばん細いペンで描くだけでは満足できず、
りゅうくんとぼくは、シャープペンの芯の先端を
カッターで尖らせたりした。それに飽きると、
反対にできるだけ大きなハットリくんを描くことにした。
ぼくは、ノートの真ん中でシャープペンをぐるぐるとやって、
黒い丸を描いた。ハットリくんの右目の瞳のつもりだった。
これ以上大きくは無理だろうと思っていたら、
りゅうくんは、次のページの真ん中に、
ただシャープペンの先端を押し付けただけの点を描いた。
「左目の瞳」と言うつもりかと思い、鼻で笑う準備をしていたら、
りゅうくんは「ハットリくんの毛穴」と言った。
それは、夏休みの日のことだった。
課外授業のためにぼくらは教室に閉じ込められていた。
教壇では、メガネをかけた歯並びの悪い先生が、
セミの鳴き声にまみれながら二次関数について語っていた。


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2014年08月24日

細川美和子 2014年8月24日放送

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夏休みの宿題
                           
     細川美和子

1976年の夏休み、
そのスイカのタネは気まぐれに庭に埋められた。
そしてそのまま忘れられた。
ほかの兄弟たちはどこに行ったんだろう?
まっくらな土の中でスイカのタネは考えた。
でもなにも思い浮かばなかった。
包丁で切られ、スプーンでほじられ、土にうめられるまで、
タネが見てきた世界はあまりにすくなかった。
考える材料がなかったのだ。
そこでタネは、眠ることにした。
ひんやりとした土の中、タネはこんこんと眠りつづけた。
でもあるとき、誰かに激しくゆさぶられて目が覚めた。
なんだからまわりの様子が変わっている。
カラダがほとんど、土から飛び出してしまっている。
じりじりと頭の上のほうが熱い。
ああ、あれが太陽か。
かと思えば、激しい雨がタネをうちつける。
大きな黒い鳥がゆっくりと
自分を狙っているのを感じる。
ああ。暗い土のなかで、
眠っていたころがなつかしい。
それよりももっと前、
お母さんの赤いカラダの中で
眠っていたころがなつかしい。
どうしてこんなこわくてさびしい思いを
しなければいけないのか。
タネの頭と胸は、はちきれそうだった。
そして実際、プチっと音がした。
タネは自分がこわれる音を聞いた。
誰かが遠くで拍手している。


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2014年08月17日

小松洋支 2014年8月17日放送

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イワンの馬鹿
            
           小松洋支

「イワンの馬鹿!」
大声で叫んで、エカテリーナは持っていた手提げで
イワンをぶとうとした。
が、イワンがとっさに身をかわしたので、
手提げは空を切ってエカテリーナのひざに当たり、
鉛筆やノートが転がり出た。

「馬鹿、馬鹿、馬鹿!」
エカテリーナは手提げを投げ捨て、
両手のこぶしを振り回しながら突進してきた。

イワンは身を翻して駆け出し、
レンガ作りの郵便局の角を曲がって人ごみに紛れこんだ。

もとはと言えばイワンが悪いのだ。
エカテリーナと渡り鳥の集まる池を見に行く約束をしていたのに、
それをすっぽかしてユーリーと蚤の市に出かけたのだから。


センナヤ広場はいつものようにごったがえしていた。
道端に腰をおろして、特になにをするでもなく、
ただ通る人を眺めている男たち。
釣ってきた魚や、摘んできた野の花を売ろうとして
人びとの間をさまよい歩いている子どもたち。
まだ暗くならないうちから、
客を待ってたたずんでいる派手な化粧の女たち。

そんな女たちの中に、
エカテリーナの母親もいることをイワンは知っていた。
だからエカテリーナは決してセンナヤ広場には近づかない。
そしてイワン以外に、
エカテリーナの相手をしようとする者はいない。

イワンは広場を横切り、古びた居酒屋の前で立ち止まった。
店先にいつもすわっている黒い犬がさかんにしっぽをふった。
屋外のテーブルで、学生らしい若い男と
風采の上がらない赤ら顔の中年男がウオッカを飲んでいた。

と、突然、人ごみの中に知っている顔が見えた。
イワンの父親だった。
一年の大半を地方に行商に出ていて、
家にいることはほとんどない。
ペテルブルグにいること自体が驚きだった。

父親はたばこを吸いながら、
妙に落ち着かない様子であたりを見回していた。
女が一人近づいてきた。
エカテリーナの母親だった。
二人はなにか話しあっていたが、
やがて腕を組んで細い路地に消えていった。

イワンは走って運河沿いの道に出た。
くちびるを噛みしめていたので、血の味がした。
橋から見下ろすと、カイツブリが二羽、静かに水を搔いていた。

イワンはポケットから鉛でできた十字架のペンダントを取り出した。
蚤の市でエカテリーナのために買ってきたものだ。
それを運河に投げ捨てようとして、思い切り腕を振りあげた。
が、力なく、だらんとまた腕を下ろした。

暮れてゆく運河に向かって、イワンは吐き捨てるように言った。
「イワンの馬鹿」


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2014年08月10日

土公奈緒 2014年8月10日放送

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口移しの酸素

      土公奈緒

地球温暖化は急速に進行し、世界は海に沈んだ。

昔ハリウッド映画であった事が
とうとう現実のものになったのだ。
ただ、映画と違っていたのは、
人類は、水上ではなく海中で
生きているところだ。

海中で生きる人類は、頭に宇宙飛行士のような
フルフェイスのカプセルを装着している。
カプセルは生存センターとパイプでつながっていて、
絶えず酸素が送りこまれている。
1日に3回、決まった時間には
酸素に紛れて栄養サプリメントも送られてくる。
このカプセルを頭につけている限り、
人類は以前とほとんど変わらない暮らしを
海中でおくることが出来るのだ。

海中での生活は思いのほか快適そうだった。
スピードが出なくなったおかげで交通事故が減り
浮力のおかげで体重300キロの男性が数十年ぶりに自力で歩いた、
なんていう嬉しいニュースが連日報道された。

海中での生活で人類が失ったものは、ただひとつ。

キスだ。

寝るときも、セックスするときも、カプセルは外せない。
ゆりかごから墓場まで。
今や、人類の生活はカプセルと共にある。
カプセルが邪魔をするから、
キスができなくなった。

キスが出来なくても死にはしない。
我々はそう思っていた。
しかし、どういうことなのだろう。
年に、一組か二組のカップルが、
キスをして死ぬのだ。

実のところ、カプセルを外してキスをしても
すぐには死なない。口移しに呼吸をし、
酸素を送り合えばいいのだ。

人は、1回の呼吸で
約500mlの空気を吐き出す。
そのうちの約16%、80mlが酸素だ。
1度呼吸し吐き出された空気からは
約5%、酸素が減少する。

80mlの酸素を男が吸い、
男が吐き出した76mlの酸素を女が吸い、
女が吐き出した72.2mlの酸素を男が吸い・・
こうしてカップルで交互に呼吸をしていくと、
85回の呼吸で酸素量は1ml以下になる。
人は4秒に1度呼吸をするので、
85回は約5分間。

つまり、5分以内のキスならば、
カプセルを外しても死ぬことはないのだ。

しかし、事実、キスをして死ぬカップルがいる。
しかもその数は年々増えているという。

どうしてそこまでキスをしたいのか、
我々には理解できない。

キスというものを、地球に来て初めて知ったものだから。


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2014年07月20日

細川美和子 2014年7月20日放送

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トラブルメーカー

細川美和子


しあわせになる方法は
昔から語られてきて、
真理はとっくに
発見されているはずなのに
なぜ世界には課題が山積みなのかというと
人間は退屈にたえられないからである。
そこで、トラブルメーカーが
せっせと難題をつくっては、
解決の苦しみと楽しみを人間に与えている。
トラブルメーカーは
東京の下町にあって、
社長のおじさんがひとり
専務がひとり
係長がひとり
もう若くない若手がひとり
経理のおばさんがひとり
で経営されている。
なにしろ気づかれてはいけないので、
地味な感じで活動しているのだ。
月に一度、夜の部会があって、
参加率はほぼ100%。
芋焼酎のお湯割や、
ホッピーなんかを飲みながら、
世界にどんなトラブルがあったら
人類がよろこぶかをぽつぽつと語り合う。
カラオケとかは行かなくて、
終電の前にはみんな家に帰る。


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2014年07月13日

小山佳奈 2014年7月13日放送

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「よもぎの国」

           小山佳奈

母が死んだ。
施設に長くいた母の葬儀はとても簡素なものだったので、
兄と姉と私はお葬式が終わると、
初七日もそこそこにそれぞれの家へ帰った。
母のことは、嫌いだった。
田舎育ちで、都会のことを何も知らない母。
その田舎くささが嫌で、私は18の時に、逃げるように家を出た。
結婚してからというもの、ますます実家からは遠ざかり、
今回の帰省は10年ぶりだった。
地元の駅につくと、ほっとしたのか、疲れが出たのか、
妙に足が重く、だらだらと歩いていると、
いつも通っている土手に、見慣れない草を見つける。
あれ、こんなところに、よもぎなんて。
気づけば、そこかしこに生えている。
いじましく葉を広げるよもぎを見ていると、
突然、記憶がよみがえってきて、
いつの間にか私は、目につくかぎりのよもぎを摘んでいた。
家に帰ると、泥を落とす間ももどかしく、
お湯をいっぱいに沸かしてよもぎをゆでると、
独特の青臭い匂いが台所中に広がる。
そうだった。
いつも母とよもぎを摘んでは、草餅をいっしょにつくった。
母は野草を見分ける達人で、その原っぱの草が、
食べられるか食べられないかを、瞬時に見分けることができた。
よもぎとのびるとつくしは、春のごちそうだった。
東京では、菜の花の天ぷらが、1000円以上するんだよと言うと、
母は金歯をむき出しにして、笑っていた。
そんな母が少しぼけ始めたとき、
私たち兄弟はめんどくさがって、施設に入れてしまった。
その施設はとても立派なものだったけれど、
街中のビルだったから周りに野草なんて生えているわけもなかった。
なぜ最後くらい母を自然の中に帰してあげられなかったんだろう。
出来上がった草餅を、私は一つ残らず平らげた。
お腹がはちきれそうだったけれど、全部食べつくした。
私の体を、野草の香りで満たしたかった。
そんなことをしても、母が帰ってこないことはわかっているのに。


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2014年06月29日

上田浩和 2014年6月29日放送

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リストバンド

           上田浩和

なんとか座れた電車のなかで、腕時計を見ようとしたら、
左の手首に黒い物体が巻き付いていて驚いた。
幅はおよそ7、8センチの黒のタオル地。
オレンジの糸でH、A、R、A、つまり原という名前と
その下に数字の88が刺繍してあるそれは、
リストバンドでプロ野球の応援グッズのひとつだ。
某球団の監督が現役の頃からのファンであるぼくは、
今日、試合開始前にそれを野球場の売店で買って、
左手首にはめて野球観戦をして、今はその帰りだった。
試合のほうは先発投手の助っ人外国人が打ち込まれたため
序盤の3回ですでに結果が見えたようなつまらない内容だったけど、
このかっこいいリストバンドを買えたから今日はよかったと
3分くらい前に左手首を見ながら思ったばっかりだったのに、
3分後には同じリストバンドを見て驚いたぼくは馬鹿なのだろうか。
でも、まあ、見てしまったわけだから、
それがたとえリストバンドだったとしても、
そこになんらかの時間を読み取らなくては、
せっかく見たぼくの両目もかわいそうだし左腕も見られ損だと思い、
そういえばと思い出したことがある。
授業参観のとき。子供の頃のことだ。
必死に右手を挙げてアピールしたのに一度も当ててもらえなくて、
ぼくの右手は来ていた母親に見られ損になったことがあった。
当時のぼくは、手を挙げて当てられるたびに「分かりません」
と言うのが好きだったので、
先生としても晴れの舞台でそんなことをやられてたまるかと思ったのかもしれない。
今回は、左手にそんな見られ損などという憂き目にあわせないよう
リストバンドから無理矢理現在時刻を読み取った結果、
現在、HARA時88分。
なんだよHARA時って。88分っていったい何分だよ。
ぼくは自分がとてもおもしろいことを言った気がして、
言うきっかけを与えてくれたこのリストバンドのことを
さらに気に入った。
ロレックスが、HARA時を指すだろうか。
オメガが、88分を刻むだろうか。
このリストバンドが、時間は金じゃないと教えてくれているような気がするのは
ぼくだけだろうか。
家につき、ズボンとTシャツを脱いで、
靴下とパンツとリストバンドだけになって鏡の前に立つと、
いろんなポーズを試してみた。
ネクストバッターズサークルで膝をつき出番を待つポーズ。
一塁でリードして牽制球で慌ててベースに戻るポーズ。
三塁ベース上で、タッチアップのタイミングを計るポーズ。
うんこ座りしてミットを構えるキャッチャーのポーズ。
そのどれもがリストバンドのおかげで様になっていたが、
ふと窓の外に視線をやると、ベランダに干していたタオルが
カーテンの隙き間からこちらをじっと見ていて
少し恥ずかしくなった。


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タグ:上田浩和
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