コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2014年06月29日

上田浩和 2014年6月29日放送

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リストバンド

           上田浩和

なんとか座れた電車のなかで、腕時計を見ようとしたら、
左の手首に黒い物体が巻き付いていて驚いた。
幅はおよそ7、8センチの黒のタオル地。
オレンジの糸でH、A、R、A、つまり原という名前と
その下に数字の88が刺繍してあるそれは、
リストバンドでプロ野球の応援グッズのひとつだ。
某球団の監督が現役の頃からのファンであるぼくは、
今日、試合開始前にそれを野球場の売店で買って、
左手首にはめて野球観戦をして、今はその帰りだった。
試合のほうは先発投手の助っ人外国人が打ち込まれたため
序盤の3回ですでに結果が見えたようなつまらない内容だったけど、
このかっこいいリストバンドを買えたから今日はよかったと
3分くらい前に左手首を見ながら思ったばっかりだったのに、
3分後には同じリストバンドを見て驚いたぼくは馬鹿なのだろうか。
でも、まあ、見てしまったわけだから、
それがたとえリストバンドだったとしても、
そこになんらかの時間を読み取らなくては、
せっかく見たぼくの両目もかわいそうだし左腕も見られ損だと思い、
そういえばと思い出したことがある。
授業参観のとき。子供の頃のことだ。
必死に右手を挙げてアピールしたのに一度も当ててもらえなくて、
ぼくの右手は来ていた母親に見られ損になったことがあった。
当時のぼくは、手を挙げて当てられるたびに「分かりません」
と言うのが好きだったので、
先生としても晴れの舞台でそんなことをやられてたまるかと思ったのかもしれない。
今回は、左手にそんな見られ損などという憂き目にあわせないよう
リストバンドから無理矢理現在時刻を読み取った結果、
現在、HARA時88分。
なんだよHARA時って。88分っていったい何分だよ。
ぼくは自分がとてもおもしろいことを言った気がして、
言うきっかけを与えてくれたこのリストバンドのことを
さらに気に入った。
ロレックスが、HARA時を指すだろうか。
オメガが、88分を刻むだろうか。
このリストバンドが、時間は金じゃないと教えてくれているような気がするのは
ぼくだけだろうか。
家につき、ズボンとTシャツを脱いで、
靴下とパンツとリストバンドだけになって鏡の前に立つと、
いろんなポーズを試してみた。
ネクストバッターズサークルで膝をつき出番を待つポーズ。
一塁でリードして牽制球で慌ててベースに戻るポーズ。
三塁ベース上で、タッチアップのタイミングを計るポーズ。
うんこ座りしてミットを構えるキャッチャーのポーズ。
そのどれもがリストバンドのおかげで様になっていたが、
ふと窓の外に視線をやると、ベランダに干していたタオルが
カーテンの隙き間からこちらをじっと見ていて
少し恥ずかしくなった。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:上田浩和
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