コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2013年07月21日

細川美和子 2013年7月21日放送

hosokawa.jpg


迷子

            細川美和子

団地に住んでいた小学生のころ。
すぐ近くの公園に白い子犬が迷いこんできた。
ほんとは犬が飼いたいのに
飼えない団地の子どもたちの多くは、
それはもうよろこんだ。
こっそり給食の牛乳やパンを持ち帰ってあげて。
放課後にはみんなでその公園に集まるのが
楽しみになっていた。
でも、だんだん子犬は大きくなって。
給食のパンじゃ、足りなくなったんだね。
ごはんをあげおわったあとも、
子供たちのあとを追い回すようになった。
中には、こわくなって逃げだして
転んでしまう子も出てきた。
だんだん、近づかなくなる子もでてきた。
そんなある日。
いつものようにパンをもって公園に着くと、
目の前を檻のついた車が走っていった。
その檻の中には、哀しそうな顔の
あの白い犬がのっていた。
わたしはびっくりして泣き出した。
泣き出したまま、走って車を追いかけた。
追いかけて、追いかけて、
でも、もちろん追いつけなかった。
気がつくと、町の知らない場所にきていた。
帰り道もわからなくて、途方にくれていると
むこうから必死の形相で走ってくる人がいる。
お母さんだった。
近所の人に、おたくのお子さん、
走ってついてっちゃったわよ、と知らされたらしい。
エプロン姿で、ものすごい顔で、走ってきてくれた。
よくこの場所がわかったなあ。
けっこう走ったんだけどなあ。
そのぼんやり思いながら、また泣けてきた。
あの子犬は、お母さんに見つけてもらえなかったんだなあ。
ごめんね。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:細川美和子
posted by ポケット社 at 23:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | 番組原稿と音声 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読んだ時に、どうしようって思いました。
動画を見て、泣けてきました。
私は走れなかったけど、犬はポインターだったけど、その場に出くわして泣きながら帰った思い出が蘇りました。
辛い思い出なのですが、忘れたくないです。
Posted by fukakey at 2013年07月22日 02:30
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