コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2012年09月16日

小松洋支 2012年9月16日放送

9.16.jpg

男たち

              小松洋支

雨が降っていた。

コンビニの前を通りかかると、
びしょ濡れのスーツを着た若い男が立っていた。
買ったばかりらしいビニール傘をさし、
ケータイでメールを打っていた。
社会人になって 1、2年目くらいだろうか。
顔に幼さが残っている。
足もとには、何かのサンプルが入った大きな紙袋が2つ置かれている。
それが倒れないように、ふくらはぎで後ろの壁に押しつけながら、
男は一心にメールを打っていた。
ケータイの隅でルフィーのストラップが揺れていた。


雨が降っていた。

公園の前を通りかかると、
いまはもう誰も使わなくなった電話ボックスに
ワイシャツ姿の若い男がしゃがみこんでいた。
耳と肩で受話器をはさみ、
しゃがみこんだ膝の上に書類をひろげ、
電卓をたたき、
書類の端にボールペンでメモをとり、
男は電話の相手に頭を下げるような動作を何度も繰り返していた。
上着はグリーンの電話機の上に丸めて置かれ、
眼鏡が汗で曇っていた。

雨が降っていた。

ホームセンターの前を通りかかると、
キャップをかぶり、青いつなぎを着た若い男が、
2トントラックの運転席に座っていた。
トラックの横腹には、「トーツー」というカタカナの文字が
ペンキで大きく書かれていた。
男は買ってきた弁当を食べようとしていたところだった。
揚げものにソースをかけようとするのだが、
ソースが入った小さな袋の口がなかなか切れない。
男は割り箸を口にくわえ、ソースを目の高さまで持ちあげ、
指先に力をこめて、懸命に袋の口を切ろうとしていた。


「男たち、」
わたしは心の中で言った。

「あと何年かしたら、わたしは大人になる。
そうしたら、わたしは何人ものわたしに分身して、
あなたたちに似た男たちみんなと、結婚するだろう。
あなたたちが生きなければならない理由をつくるために、
あなたたちの子どもを産むだろう。
その日が来るまで、もちこたえるのだ」

雨が降っていた。

雨の中を、中学校の制服を着たわたしは、歩いていた。
わたしの唇は、怒ったように固くむすばれていた。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:小松洋支
posted by ポケット社 at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 番組原稿と音声 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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