コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2012年06月03日

渡辺潤平 2012年6月3日放送

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「象と私」 

           渡辺潤平

そう言うわけで、私の心に象が住みついてから、
もう2週間になる。

そもそも私は、象という生き物が大嫌いだ。
愚鈍極まりない眼(まなこ)。無神経な皮膚。
無駄に肥大したとか思えぬ図体。
すべてが物悲しく見えて仕様がない。

私が奴らを斯様にまで憎む原因はおそらく、
この国の義務教育にあるだろう。
「かわいそうなぞう」然り、「オツベルと象」然り、
国語の教科書に登場する、象にまつわる物語は、
どれも悲劇的で救いがない。
象はいつも、人間を信じ、人間に媚びへつらい、
そして裏切られる。
それなのに、象はいつでも、
その濡れた瞳で無上の愛を要求する。
愚かだ。
いつしか私は、動物園へ連れて行かれても、
象の檻だけは避けて通るようになっていた。 

それなのに、よりによってなぜ、私の心などに、
奴は棲みつくようになったのか。
問いかけると、「そいつは教えないゾウ」などという
偏差値40台前半の駄洒落で返してくる、
愚かで醜いこの象を完全に持て余したまま、
私は重い気分で毎日を過ごす羽目になった。

「心の狭い男ね」と、これまでの人生で散々言われて来たこの私だ。
象一頭を養う心の広さなど、とてもじゃないが持ち合わせていない。
ぜんたい、いまこの瞬間も、心の中は象のみによって満たされている。

このままでは、恋も出来ない。
それどころか、仕事さえままならない。

私は、象を殺すことを決意した。
アイ ディサイデッド トゥ キル ジ エレファント。
…ただ英語で言っただけで、別に深い意味はない。

問題は、奴をどう殺すかだ。
飢え死にさせる?そもそも、奴が何か食している様子を見たことがない。
刃物で刺す?それでは、私の心臓を貫くことになってしまう。
呪い殺す?私は貞子ではない。
天敵に襲わせる?はたして、象に天敵などいるのだろうか。
私はインターネットで検索をした。象、一文字あける、天敵。
なるほど。虎か。
虎は群れで、巨大なアジアゾウを襲うことがあるらしい。
虎の群れ…か。

(野球場の大歓声)

そんなわけで、私は今、虎の群れのまっただ中にいる。
そう。甲子園球場のライトスタンドだ。
虎の群れは、私の心の中の象には見向きもせず、
一心不乱に、目の前の高橋由伸に襲いかからんとしている。
話が違うではないか。
…まあ、いい。夜風にビール。じつに心地よい。
野球場でナイター観戦など、いつ以来だろうか。
うむ。何だか、色んなことがどうでも良くなってきたゾウ。

カキーーン!!

代打ゾウ島の、目の覚める様なホームランに、
牙をむき出しにして熱狂する虎の群れたち。
気づくと私は、私の心に棲みついた象と肩を組み、
六甲おろしを熱唱していた。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:渡辺潤平
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