コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2015年03月22日

細川美和子 2015年3月22日放送

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冬のポケット
                  
      細川美和子

もう長い間ずっと着ているコートの
ポケットがふたつとも空いてしまった。
空いてしまった、と言っても、
そのことに気づいたのは、もう5年も前のこと。
わたしはめんどくさくて、
ずっとそのままにしていた。
大事なものはカバンに入れればいいし、
ポケットは手をつっこむためにあればいい。
そんな風に間に合わせてきたけど、
やっぱり、穴の空いたポケットは心もとなくて。
のれんに腕おし。
とはちょっと違うけど、
ポケットに手を入れるたびに
すーすーどっかに風が通るようで。
そろそろ縫わなきゃなあ、
と思うようになっていた。
そんな矢先。
地球の温暖化があれよあれよと進み、
もうコートが必要なくなってしまった。
わたしのコートも、コートのポケットも、
もう生活から必要なくなってしまったのだ。
まったく着なくなってようやく、
わたしはコートのポケットを縫った。
ありがとう、とコートが言った。
うそです。
遅いよ、とコートは言った。
それもうそです。
コートはもちろんなにも、言わなかった。
寒い冬が、恋しかった。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/

タグ:細川美和子
posted by ポケット社 at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 番組原稿と音声 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする