コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2015年03月08日

岡田真平 2015年3月8日放送

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法事とすき焼き

     岡田真平

その週末は、ばあちゃんの十三回忌で、
僕たちは東京から実家のある滋賀県に帰っていた。

法事の仕上げには、きまって家族ですき焼き鍋を囲む。
ばあちゃんの一番の好物だったから、仏壇の前でみんなで肉を焼く。
もちろん最初は親戚たちから非常識だと怒られていた。
でも喪主である、じいちゃんは曲げなかった。

四十九日の納骨前の白い骨壷の前に供えられた、カネフク精肉店の緑の紙包み。
骨だけになったばあちゃんは、
近江牛のロース肉2キログラムと向き合い何を思ったのか。

じいちゃんは一緒に食べている気になっても、
もう食べられないばあちゃんにとっては、
それこそ、うらめしや、だろう。

包装紙にプリントされた精肉協会のマスコットキャラクター、
近江牛の牛ベヱくんは、そんな事情とは関係なく、
ぺろりと舌を出した笑顔で、包装紙の片隅にたたずんでいた。

一周忌ですき焼きが出されたときには、
親戚の中には、去年のことを思い出して、まだ顔をしかめる親族もいたが、
三回忌のときにはすっかり当たり前の行事になっていた。

よく焼けたすき焼き鍋に、まずは牛脂のブロックを乗せる。
ジューという音とともに、牛肉の甘い脂の焼ける匂いが立ちのぼる。
鍋に満遍なく油がなじんだら、
サシの入ったロース肉を破れないように慎重に広げる。
さっと焼いたところで、砂糖を振って、醤油をたらして、裏返す。
いい焼き色がついたところで、鍋から上げ、溶き卵をくぐらせる。
じいちゃんが焼いてくれた肉を、家族がひとり一枚ずつ食べる。
そこから九条ねぎ、糸こんにゃく、焼き豆腐が入り、鍋になっていく。
いわゆる関西風のすき焼きだ。

ばあちゃんが人を呼んでいるのか、すき焼きが人を呼ぶのか、
七回忌のときには、よくわからなくなってきていた。
名古屋の隆弘おじさんは、法事には間に合わずすき焼きを食べて、
仏壇の前に座ることなくまた名古屋に帰っていった。

十三回忌の今年は、五歳になる息子もその輪に加わった。
卒寿を迎えたじいちゃんは、食べる量こそ減ったものの、
今年肉を焼き続けている。

近江牛の牛ベヱくんは、去年、
滋賀県のゆるキャラグランプリで念願の優勝を果たし、
食べられる牛の代表として、
ぺろりと舌を出して微笑み続けている。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/




タグ:岡田真平
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2015年03月04日

ジム通い

このままだと運動不足で死んでしまうかもしれないと思い、
4、5年ぶりにジム通いをはじめました。
久しぶりに内側からジムを眺めてみて気付いたのは、
設備にたいした変化はないものの、
そこで運動する人たちの格好がオシャレになっているということ。
5年前は高校のとき使っていた部活ジャージで大丈夫でした。
動きやすければ何でもいいや、
という割り切りが誰のなかにもあって、
部屋着のまま飛び出してきたような人たちが走ったり、
自転車に乗ったりしていて、
それがジムのなかに気軽な雰囲気を
醸し出していたような気がします。
(ぼくが通っていたジムが田端にあったせいもあると思うのですが)

ところが、最近のジムで見かける人たちからは、
シュッとした印象を受けます。
だいたいの人は膝上、もしくはちょい膝下のショートパンツに
Tシャツを合わせているのですが、そのどちらも、
いやにテカテカしていてヒラヒラしているのです。
そのシュッは、そのテカテカとヒラヒラから来ているように思えます。
そしてそのテカテカとヒラヒラは、
各スポーツメーカーが威信をかけて開発し合っている
「なんとかかんとかクールマックス」という
速乾性が自慢の機能性素材から来ているようです。

みんながそういう最新型スポーツウェアを着ている中に、
ふつうの綿のTシャツで行くと、
普段運動していないことがばればれなうえ、
自分のテカテカしてなさが異様に気になります。
おれには輝きが足りないと思えてきます。
そこで先日、新宿のアディダスショップに行って、
僕も買ってきました。
で、着てみて思ったのは。
ぼくにはまったく似合わない。
せっかくのヒラヒラとテカテカを自分のものにできていない。
着替えて家の鏡の前に立った僕は、輝きを全部、
ショートパンツとTシャツに吸い取られたみたいに
ひからびて見えました。
ヒラヒラでテカテカが隠しきれない腕や顔の、
なんとカサカサなことか。
最新型のスポーツウェアと比べて、
なんと自分の旧式なことか。
ぼくは、人生の可能性と一緒に、
肌の水分とかまで失っていたんですね。
そして、脛の生白さ。気持ち悪い。
そう言えば、初めてLED電球の光を見たときの感じと似ています。
すね毛も弱々しく覇気が感じられない。
べたっと脛にはりついていて、
今から運動をしようとしている人のすね毛とは思えません。
靴下跡にもなぜか無性に腹が立つ。脛に腹を立てるなんて。
脛VS腹の構造は予想していませんでした。
40間近の運動不足が最新のスポーツウェアで身を包むと、
こういうことになるんですね。恥ずかしくて仕方ないです。
でも、恥ずかしがっても始まらないので、
ここ最近、週一でジムに通っています。
なるべく鏡を見ないようにしながら、
女性スタッフの方の視線を避けながら、
自転車にのったり、走ったりしています。
このスポーツウェアが似合うようになるのは、
いったい何キロ先のことなのでしょう。
一生似合わないままのような気もするし、
似合う前にジム通いをやめてしまいそうな気もします。(う)
posted by ポケット社 at 12:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | ポケット社通信 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする