コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2014年08月17日

小松洋支 2014年8月17日放送

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イワンの馬鹿
            
           小松洋支

「イワンの馬鹿!」
大声で叫んで、エカテリーナは持っていた手提げで
イワンをぶとうとした。
が、イワンがとっさに身をかわしたので、
手提げは空を切ってエカテリーナのひざに当たり、
鉛筆やノートが転がり出た。

「馬鹿、馬鹿、馬鹿!」
エカテリーナは手提げを投げ捨て、
両手のこぶしを振り回しながら突進してきた。

イワンは身を翻して駆け出し、
レンガ作りの郵便局の角を曲がって人ごみに紛れこんだ。

もとはと言えばイワンが悪いのだ。
エカテリーナと渡り鳥の集まる池を見に行く約束をしていたのに、
それをすっぽかしてユーリーと蚤の市に出かけたのだから。


センナヤ広場はいつものようにごったがえしていた。
道端に腰をおろして、特になにをするでもなく、
ただ通る人を眺めている男たち。
釣ってきた魚や、摘んできた野の花を売ろうとして
人びとの間をさまよい歩いている子どもたち。
まだ暗くならないうちから、
客を待ってたたずんでいる派手な化粧の女たち。

そんな女たちの中に、
エカテリーナの母親もいることをイワンは知っていた。
だからエカテリーナは決してセンナヤ広場には近づかない。
そしてイワン以外に、
エカテリーナの相手をしようとする者はいない。

イワンは広場を横切り、古びた居酒屋の前で立ち止まった。
店先にいつもすわっている黒い犬がさかんにしっぽをふった。
屋外のテーブルで、学生らしい若い男と
風采の上がらない赤ら顔の中年男がウオッカを飲んでいた。

と、突然、人ごみの中に知っている顔が見えた。
イワンの父親だった。
一年の大半を地方に行商に出ていて、
家にいることはほとんどない。
ペテルブルグにいること自体が驚きだった。

父親はたばこを吸いながら、
妙に落ち着かない様子であたりを見回していた。
女が一人近づいてきた。
エカテリーナの母親だった。
二人はなにか話しあっていたが、
やがて腕を組んで細い路地に消えていった。

イワンは走って運河沿いの道に出た。
くちびるを噛みしめていたので、血の味がした。
橋から見下ろすと、カイツブリが二羽、静かに水を搔いていた。

イワンはポケットから鉛でできた十字架のペンダントを取り出した。
蚤の市でエカテリーナのために買ってきたものだ。
それを運河に投げ捨てようとして、思い切り腕を振りあげた。
が、力なく、だらんとまた腕を下ろした。

暮れてゆく運河に向かって、イワンは吐き捨てるように言った。
「イワンの馬鹿」


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:小松洋支
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エアマックス

HERO見てます? ぼくは見てます。
よくある刑事物のドラマと違って、
起こる事件がおおげさじゃないところがいいですよね。
連続殺人が起こるわけじゃなく、ちょっとした万引きなどで、
1時間引っ張っていけるのは脚本の力でしょう。
事件に大きいも小さいもないんだ、と言われそうですけど、
事件が小さい分、人を描くことに時間を割いてあって共感できます。
なによりもぼくはキムタクが大好きです。
キムタクが映ると、うわ、キムタクだ。と思います。
自然と衣装にまで目がいきます。
この前、ちょっと興奮してしまったのは、
スーツではなくカジュアルな格好が持ち味の、
キムタク演じる久利生検事が
エアマックスを履いていたことに対してです。
うわ、キムタクと思ったあと、うわ、エアマックスと、
連続技で驚きましたもんね、あの時ばかりは。

エアマックスと言ってもいっぱいありますが、
1995年、ぼくが大学生の頃に発売されて、
エアマックス狩りまで発生したあのナイキのスニーカーですね。
ぼくは当時、ひょんなことからその靴を入手していたのですが、
狩られるのが怖いあまり、家で履くことを専門にしていました。
鏡の前に立って、メンズノンノのようなポーズをとって、
うん、とか、おう、とかつぶやいて満足する。
そのとき、フローリングの床が立てるキュッキュッという音が
たまらなく好きでした。
履いて外に出たのは、一度だけです。
路地裏に連れ込まれないように通りの真ん中を歩くようにして、
でもそれだと街にむかって自慢してるようで、
これでは狩人に見つけてくださいと言ってるようなものだと思い直し、
通りの端を歩いていたら、高校生くらいの男子の集団に気付かれて、
やばいやばいと思ってその場を離れたんですけど、
ほぼ駆け足に近い状態で逃げている途中で、
ああ、やっぱりこの靴は走りやすいなあと思ったりしたのでした。

あれから20年近く過ぎました。
その間、人生という道を走ったり歩いたり立ち止まったりしてきましたが、
せっかくのエアマックスを家に置いて、
エアの入っていないふつうの靴で生きてきたせいか、
足腰が痛くなっただけで、
思っていたよりも遠くまで来れなかったような気がします。
あのとき、狩られることを恐れずエアマックスを履いていたなら、
ぼくも今頃、検事になっていたかもしれないですよね。

これからHEROがどんな展開を見せるのか楽しみです。
久利生検事のエアマックスが若者によって狩られて、
その若者が加害者として、
久利生検事の前に現れるというストーリーも考えられますね。
HEROのいいところは、事件がおおげさじゃないところですからね。(う)
posted by ポケット社 at 14:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | ポケット社通信 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする