コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2014年07月27日

上田浩和 2014年7月27日放送

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りゅうくん

        上田浩和


「ウーマンインレッドって知っとる?」。
高校三年生の夏。りゅうくんが言った。
ぼくは知らなかったけど、そういう映画があるらしい。
りゅうくんとぼくは教室の窓際の席にいて、
二時間目と三時間目の間の休み時間で、
りゅうくんは鞄から一枚のCDを取り出した。
赤いドレスを着た女性が印象的なジャケット。
それがその映画のサントラだという。
「このなかの曲ばね、明日、放送部の横山にお願いしてから、
昼休みの校内放送でかけてもらうつもりとたい」。
そう言うりゅうくんに「なんで?」とぼくは聞いた。

次の日の昼休み。
りゅうくんとぼくは中庭にいた。
そこから二階にある三年七組の教室を見上げていた。
りゅうくんの顔は緊張でぎくしゃくしていた。
「そろそろじゃないと? りゅうくん」。
ぼくの声もどこかそわそわしていた。
校内放送がはじまった。
普段は気にもとめない放送部の横山くんの声に、
その日だけは全身を耳にした。
いつものどうでもいい前置きのあと、
「今日はリクエストが届いています」と横山くんは言った。
「来たー!」とぼくらは小さく叫び、
たまらずその場にしゃがみ込んだ。
「三年七組の丸山さんに、三年四組のりゅうくんから、
曲のプレゼントです」。
その一言で、それまでざわついていた三年七組の教室が
急に静かになったのが分かった。
そして、横山くんはつづけた。
「スティービーワンダーで『心の愛』です。どうぞ」。
静けさから一転、三年七組の教室から、
女子たちのきゃーという歓声が溢れ出してきた。
りゅうくんは顔を真っ赤にしながら耳をすませていた。
そのなかに丸山さんの声を探していたのかもしれない。
イントロはほとんど聞き取れなかったけど、
サビにさしかかる頃には、教室のざわめきも一段落して、
同じようにぼくらも落ち着きを取り戻していた。
それから数分の間、
学校中にスティービーワンダーの歌声が響いていた。
ぼくは、とてもいい曲だと思った。
聞きながら、さっきの歓声を頭のなかで振り返っていた。
いい反応だったと思う。
丸山さんがどう思ったのかは分からないけど、
三年七組はふたりを祝福していたように思えた。
「よかったんじゃないと? りゅうくん」とぼく。
「だとええけど。迷惑だったかもしれんねえ」。
りゅうくんはそう言うと、
日焼けした顔をゆがめてうつむいてしまった。
その横顔をぼくはなぜかうらやましいと思った。
りゅうくんとぼくは高校三年生で、季節は夏で、
制服の白い半袖のシャツを着ていた。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/

タグ:上田浩和
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2014年07月20日

細川美和子 2014年7月20日放送

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トラブルメーカー

細川美和子


しあわせになる方法は
昔から語られてきて、
真理はとっくに
発見されているはずなのに
なぜ世界には課題が山積みなのかというと
人間は退屈にたえられないからである。
そこで、トラブルメーカーが
せっせと難題をつくっては、
解決の苦しみと楽しみを人間に与えている。
トラブルメーカーは
東京の下町にあって、
社長のおじさんがひとり
専務がひとり
係長がひとり
もう若くない若手がひとり
経理のおばさんがひとり
で経営されている。
なにしろ気づかれてはいけないので、
地味な感じで活動しているのだ。
月に一度、夜の部会があって、
参加率はほぼ100%。
芋焼酎のお湯割や、
ホッピーなんかを飲みながら、
世界にどんなトラブルがあったら
人類がよろこぶかをぽつぽつと語り合う。
カラオケとかは行かなくて、
終電の前にはみんな家に帰る。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


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2014年07月13日

小山佳奈 2014年7月13日放送

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「よもぎの国」

           小山佳奈

母が死んだ。
施設に長くいた母の葬儀はとても簡素なものだったので、
兄と姉と私はお葬式が終わると、
初七日もそこそこにそれぞれの家へ帰った。
母のことは、嫌いだった。
田舎育ちで、都会のことを何も知らない母。
その田舎くささが嫌で、私は18の時に、逃げるように家を出た。
結婚してからというもの、ますます実家からは遠ざかり、
今回の帰省は10年ぶりだった。
地元の駅につくと、ほっとしたのか、疲れが出たのか、
妙に足が重く、だらだらと歩いていると、
いつも通っている土手に、見慣れない草を見つける。
あれ、こんなところに、よもぎなんて。
気づけば、そこかしこに生えている。
いじましく葉を広げるよもぎを見ていると、
突然、記憶がよみがえってきて、
いつの間にか私は、目につくかぎりのよもぎを摘んでいた。
家に帰ると、泥を落とす間ももどかしく、
お湯をいっぱいに沸かしてよもぎをゆでると、
独特の青臭い匂いが台所中に広がる。
そうだった。
いつも母とよもぎを摘んでは、草餅をいっしょにつくった。
母は野草を見分ける達人で、その原っぱの草が、
食べられるか食べられないかを、瞬時に見分けることができた。
よもぎとのびるとつくしは、春のごちそうだった。
東京では、菜の花の天ぷらが、1000円以上するんだよと言うと、
母は金歯をむき出しにして、笑っていた。
そんな母が少しぼけ始めたとき、
私たち兄弟はめんどくさがって、施設に入れてしまった。
その施設はとても立派なものだったけれど、
街中のビルだったから周りに野草なんて生えているわけもなかった。
なぜ最後くらい母を自然の中に帰してあげられなかったんだろう。
出来上がった草餅を、私は一つ残らず平らげた。
お腹がはちきれそうだったけれど、全部食べつくした。
私の体を、野草の香りで満たしたかった。
そんなことをしても、母が帰ってこないことはわかっているのに。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


タグ:小山佳奈
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2014年07月03日

笹沼さん、おめでとう!

中山さんはいつだって突然だ。
この前の土曜日もそうだった。
突然、昼過ぎにメールが送ってきて、
タイトルには「笹沼さん結婚式写真」とあるだけで、
本分はなし。写真の添付のみ。

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笹沼さんは、元々栃木FMにいた女性で、
柴草玲さんの番組を担当していて、
このポケット社は柴草さんの番組の1コーナーであるから、
笹沼さんとはそういった関係で4、5年前からの付き合いだ。
でも、おととし、栃木FMを辞め、
旦那さんの故郷である青森は八戸に行ってしまった。
そのとき柴草さんと中山さんとぼくとで小さな送別会を開いた。
笹沼さんの姿を見たのはその夜以来だった。
しかも、ウェディングドレス姿だったから、
ぼくは写真を見てけっこう驚いた。
どうやら土曜日は笹沼さんの結婚披露宴だったらしい。
招待された中山さんは、
頼まれてもないのに使命感にかられたみたいで、
その会場からどんどん写真を送ってきた。
中山さんは突然なだけでなく頻繁なのだ。

こんなのや。地酒コーナーらしい。

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こんなのや。洋酒コーナーらしい。

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このなのも。ステーキコーナーらしい。

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思うに。
きっと八戸の披露宴会場では、
スマフォを持って精力的に動き回る中山さんを見つけた
他の出席者の方々のあいだで、
以下のようなやり取りがあったのではないだろうか。

「オノヨーコみたいな人が披露宴そっちのけで、
 写真撮りまくってメールしてるよ」
「失礼なオノヨーコだね。注意しておいでよ」
「世界のオノヨーコに注意できるのはジョンレノンくらいだよ」
「じゃあ恐山行っておいでよ」
「イタコかい?」

そしてその一時間後、披露宴会場の片隅で再会を果たした、
オノヨーコ似の中山さんとイタコのジョンレノンは、
成り行きで夫婦漫才を行ったとも考えられる。

ジョン ジョンレノンです。
ヨーコ オノヨーコです。
二人  2人合わせて、イマジンです。
ジョン 久しぶりですね。ぼくが凶弾に倒れて以来ですから、
    30年ぶりくらいですか?
ヨーコ もうそんなになりますか。あれは痛かったですか?
ジョン そりゃ痛いよ。死ぬかと思ったよ。
ヨーコ いや、死んだから! たしかに死んだから!
ジョン こんな感じでね、死に別れてもなお2人の息はピッタリ。
    これが夫婦なんですね。
ヨーコ 先輩夫婦として、これから家族を作り上げていく
    新しい夫婦にむけてなにかありますか?
ジョン じゃあ結婚生活に必要な3つの袋の話をしようかな。
ヨーコ いいですね。結婚式のスピーチっぽい。ひとつ目は?
ジョン ひとつ目は、給料袋。
ヨーコ それは大事。いくら愛があっても、
    お腹はふくれませんからね。じゃあ二つ目は?
ジョン えー堪忍袋です。
ヨーコ 結婚から3年もすれば、
    お互い我慢が必要になってきますからね。
    はい、じゃあ最後、三つ目は?
ジョン 池袋。
ヨーコ ジョン。それ弱い。オチとしてそれじゃ弱いよ。
    しかも、ここ青森だから。ね。ジョン。
    東京の地名出しても、みんなぽかーんとしてる。
ジョン じゃあ東池袋。
ヨーコ いっしょです。ジョン。あんたまた撃たれたいの?
ジョン すみませんまさお。
ヨーコ ばかやろう! どうすんのこの空気? 千昌夫にも謝れよ。
ジョン じゃあ、歌います。
ヨーコ 歌ってごまかすの? まあジョンレノンだからいいか。
    で、なに歌う? 
    イマジン? イエスタデイ? レットイットビー?
ジョン コブクロで蕾。
ヨーコ それが三つめの袋かい! もういいわ!
二人  ありがとうございました!

まばらな拍手が鳴り止んだあと、
ステージには柴草玲さんがあがったそうだ。

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へんな歌うたわないといいけど、と中山さんは思ったらしい。
せめて「さげまんのタンゴ」はやめて、と中山さんは願ったらしい。
すると柴草さんは「イカの歌」というのを歌ったそうだ。
なんかもうみんな自由だな。
笹沼さん側はいいとして相手側の親族が、
イタコと漫才するコピーライターを見て、
イカの心情を歌い上げるミュージシャンを見て、
なにを思ったのかは心配だけど、
楽しい披露宴だったのだろうということが写真からはうかがえる。
よかったですねえ。笹沼さん。
おめでとうございます。笹沼さん。
末永くお幸せに。笹沼さん。(う)
posted by ポケット社 at 13:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | ポケット社通信 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする