コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2014年04月27日

上田浩和 2014年4月27日放送

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はみだし刑事

        上田浩和

先日近くのコンビニで起こった強盗事件について、
昨日のニュースは「犯人はいまだ逃走中です」と言っていたので、
そろそろやって来るかもしれないという予感はあった。
だからチャイムが鳴り、
玄関先に二人の刑事が立っているのを見たときは、
やっぱりなと思った。
眼光鋭いベテラン風と精一杯虚勢を張った感じの若い男。
その風貌に最初はひるんだが最近ではもう慣れた。
「はみだしさんはご在宅でしょうか」
ご在宅もなにも洗面台にこびりついていますよ、はみだしさんは。
二人は家にあがると洗面所にむかい、洗面台の前に陣取る。
洗面台の淵には、
歯磨き粉がチューブから3センチほどはみだしたまま
かぴかぴに乾いてこびりついている。
掃除しないのには理由があった。
このはみだした歯磨き粉、実は刑事なのである。
だから掃除するなと言われているのである。この刑事たちから。
知らない人にはひからびた白いナメクジにしか見えないそれが、
深い洞察力と常人にはないひらめきを兼ね備えた優秀さで、
いくつもの難事件を解決に導いてきたのだという。
「はみだしさん。またちょっと行き詰まってまして。
ひとつお知恵を拝借できませんか」
とベテラン風がこびりついた歯磨き粉に向かって話しかける
その姿に、わたしはばかじゃないのと思う。
若いほうがメモを取る準備をする。
わたしは死ねばいいのにと思う。

その日の夕方、若い方から犯人が捕まったとの連絡があり、
最後に「はみだしさんに、今回もご協力ありがとうございました、
とお伝えいただけますか」と付け加えた。
そんなこと言われてもねえ。
歯磨き粉が刑事だなんてどうしても信じられない。
その空気を察したのか、
若い刑事はトーンを一段落とした声で言った。
「大丈夫です。あれは、ただの歯磨き粉で刑事なんかじゃありません」


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:上田浩和
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2014年04月20日

小松洋支 2014年4月20日放送

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長い旅
              小松洋支

飛行機には何時間乗ったかな。
10時間以上じゃなかったろうか。
直行便がないので、乗り換えをしなくちゃならなかった。
待ち時間が5時間!

やっと目的地の空港に着いたのは明け方で、
まだ日は昇ってなかったけど暑かった。
空港で働いている人たちはみんな明るくて、
大きい声で何か言っては笑っていた。

それからクルマで1時間。
事務所で係りの人がぼくの顔を見てヒューと口笛を鳴らした。
まだこの先長いよ、ということなんだろう。

違うクルマに乗ってまた2時間。
着いたのは狭い港町で、
煉瓦づくりの小さなアパートがひしめいていた。
あたりには揚げた魚とジャガイモの匂いが漂っている。
はだしの子どもたちがボールに群がっている。

クルマを運転してきた男といっしょに船に乗りこんだ。
海は凪いでいる。
底の岩礁までとどくほど陽射しが強い。
ウミネコが鳴いている。
いくつも島が見える。
あの島かな、と思うと通り過ぎる。
また通り過ぎる。
ときどき浜辺でこちらに手を振る人がいる。

お昼近くになって、ようやく船が速度をゆるめた。
岸近くまで濃い緑におおわれたちっぽけな島の、
白く塗られた桟橋に停まる。

男はぼくを連れて、急な坂道を上っていく。
名前を知らない南国の花が咲き乱れている。

坂のてっぺんに赤い屋根の家がある。
ドアをノックするとブロンドの女が出てきた。
目じりに笑いじわがある。
おおげさな身振りでぼくたちを歓迎する。

やがて男は片手をあげて挨拶し、船に戻っていった。
ひとりになった女はぼくをじっと見つめた。
「ずいぶん久しぶりだこと」
ぽつりと口に出す。

それからぼくの封を切り、ひろげて読みはじめた。
何度も、何度も、読み返す。

「ばかね」
女はつぶやいた。

ぼくの上に、ぽたりぽたりと、涙が落ちた。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/



タグ:小松洋支
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2014年04月13日

山中貴裕 2014年4月13日放送

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父のサックス・気仙沼

        山中貴裕

気仙沼に生まれた父は、
おおきな船をつくる仕事に憧れたが、
経済的な事情であえなくその夢をあきらめた。
家は小さな農家で収入も少なく、
年の離れた小学生の弟もいたので、
父は18にして一家の大黒柱として
家計を支えねばならなかったのだ。
それはその時代、決して珍しいことではなかった。
昭和39年、地元の公立高校を卒業した父は
気仙沼の市役所に就職し、
以来42年間、定年退職するまで公務員として働き家族を守った。

雨の日も風の日も、
毎朝7時30分に家を出て市役所に行き黙々と仕事をこなし、
休みの日は休みの日で家の畑仕事や町内会の仕事を
文句も言わずにやっていた父。
酒もタバコもやらず、これといった趣味もなかった父。
家も建て替え、そのローンを返済しながら
2人の息子を育て上げたが、
その息子たちは共に気仙沼を出て東京で働いている。
おそらく、もう地元に帰ることはないだろう。

 ねえ、母さん。
 父さんの人生は、楽しかったのかな?

定年退職のその日、
父が買って帰って来たものを見て、家族は顔を見合わせた。
それは、銀色に輝くサックスだった。
音楽が趣味だったわけでは決してない。
カラオケさえ、恥ずかしがって歌ったことがなかった。
「これ、習おうと思うんだ」と言いながら
父は照れ臭そうに、まだ吹けもしないサックスを吹いた。
調子はずれの音が、ボワンと、汽笛のように響いた。

 父さんは、我慢してたのかな?
 本当はやりたい事たくさんあったのに
 ぼくら家族ために我慢してたのかな?

母は電話の向こうで、
「どうかしらね」と笑うばかりである。
あの夜以来、父がサックスを吹いている姿を、
母も見ていないと言う。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/





タグ:山中貴裕
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岩下の新生姜入り九条ネギ焼き

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九条ネギというのは京都の伝統野菜です。
関西の、いわゆる青葱というやつで、
関東のごっついネギにくらべると、細くて緑の部分が多いです。
関西のネギは九条ネギでなくても青葱です。
細くてみどりでたをやかです。
私なんぞはネギといったら青葱しか知りませんでしたから
東京に来てびっくりしましたよ。
なんじゃ、この野蛮な白いネギは!!!!
いまだに苦手です、はい。

そして、関西のお好み焼き屋には「ネギ焼き」と称するものがります。
細く細く切った青葱をお好み焼きの生地の上に10センチも積み上げて
その上からまた生地をかけて、ひっくり返して薄く焼き上げます。
あの10センチの厚みはどこへ行ったんじゃというくらいになります。

上の写真を見ると...う〜ん、ちょっと違いますね。
たぶん栃木風なんでしょう。ネギの長さが5センチくらいありますね。
写真を見ると海苔の下に新生姜が隠れています。
言わずと知れた岩下の新生姜です。
もともとお好み焼きと紅ショウガは切っても切れない縁のものですから
ここに新生姜を使うのはワンランク上の贅沢といいましょうか。

宇都宮の「スズヤヨシモリ」という店の
4月29日までの限定メニューです。
お近くに行ったら寄ってみてくださいね。
お好み焼きの上の写真の建物がお店です。

スズヤヨシモリ(宇都宮)
住所:〒321-0112 栃木県宇都宮市屋板町317-1
電話番号:028-656-8488
営業時間:11:00〜14:00 (ランチ)
     17:30〜22:00
定休日・水曜日

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2014年04月12日

社長近影

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2014年4月5日、お花見の公園で録りました。
ポケット社長、上田浩和の近影であります。
寒そうな服装で来たので私のセーターを貸したら
そのまま着て帰ってしまいました。
その後、セーターを返してやるから飯を食わせろという
脅迫状が届きました。
社長としていかがなものでしょうか...(さ)



タグ:上田裕和
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花見

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祖師谷公園といえば、世田谷一家殺人事件。
現場となった一軒家は公園の敷地に入ってすぐのところに、
いまだにありました。
屋根や外壁は長年の風雨によってすさみ、
玄関の前には、なぜか電話ボックスのような箱が。
たまにそこに警官が立っていることがあるそうです。
現場保存かなにかのためだそうです。
事件から10年以上もたつのに、
この家のなかは発生した日の夜のままなんですねえ。ぞっとします。

先週の4月5日の土曜日。
その家を越えて公園の奥へ100mほど進むと桜が咲く一帯があり、
中山夫妻が主催する花見はその下で行われました。
多少なりとも事件の影響が残っているかもしれないと
心配していたのですが、そんなことはぜんぜんなく、
あたりは地元の人たちで賑わっておりました。
われわれのテーブルというかなんというかシートの上も、
中山さんがつくってくれた料理のおかげで、
桜の下にも桜が咲いたみたいに華やかで、
それをつまみにヤクルトスワローズファンの人は、
前日の小川のピッチングについて語り、
釣りが趣味の人たちはカレイがいかに鈍い魚かを語り、
口喧嘩がすきな人たちは口喧嘩に花を咲かせていました。
口喧嘩が好きな人たちというのは、もちろん中山夫妻ですね。
頭の回転が速くて語彙も豊富な人同士の口喧嘩は、
聞いていて楽しいし勉強にもなります。

夫幸雄さんがしゃべる(話幸)。そのなんでもない日常の話に、
妻佐知子さんが強引なまでにひっかかりポイントを
見つけてつっかかっていく(怒佐)。一応なにか言い返す幸雄さん(返幸)。
聞く耳持たない佐知子さん(不耳佐)。謝る幸雄さん(謝幸)。
許さない佐知子さん(不許佐)。笑ってごまかす幸雄さん(笑幸)。
このように、二人の口喧嘩は、
話幸→怒佐→返幸→不耳佐→謝幸→不許佐→笑幸
という構造になっておりまして、
これを桜の下じゃなくてステージの上でやったら、
漫才になるのかもしれません。

幸雄さんはいつもだいたいなにかしゃべっています。
とてもためになることを教えてくれることもあります。
だけど、いつもぼくは酔っぱらっているからその内容を覚えていないのが残念です。
すごいのは佐知子さんです。いかなる話題でも、
それが幸雄さんから発せられたものであるならば、
強引なまでにそこにひっかかりポイントを見つけて瞬時に反論するのです。
その反論が、言葉巧みだから幸雄さんは笑うしかない。
ここに広告業界の一端を見たなとぼくは思いました。
クライアントからオリエンがきたら、
たとえそれが内容のないつるつるしたものでも、
クリエーティブの名刺を持ってる人なら、
どこにひっかかりのポイントを見つけてプレゼンしなくてはならないわけですけど、
中山夫妻の口喧嘩を見ていると、
そんなオリエンとプレゼンのやり合いをしているように感じるわけです。
幸雄さんによる日常会話というオリエンに対して、
怒りを燃料に頭を高速回転させ佐知子さんは瞬時にプレゼンし返す。
オリエンした覚えもないのに幸雄さんは突然プレゼンされて
たいへんだなとは思いますが、
こうやって脳を活性化し合っているのだからまあいいことなんでしょう。
そんな二人による即興漫才をみんなで3時間ばかり眺めていたら、
日も陰り風も冷たくなってきたのでお花見はお開きとなりました。
残念ながらぼくは参加できませんでしたが、
中山家に場所を移して二次会もあったようです。

これは、幸雄さんにこっそり教えてもらったことです。
一家殺人事件があった当時、
近所に住む中山夫妻も警察から事情聴取を受けたそうです。
その時、
妻佐知子さんは夫幸雄さんを指差して警官に向かってこう言ったそです。
「私にはアリバイがありますが、この人にはアリバイないですから、
しっかり調べてくださいね」
言われた警官はこの忙しいときに面倒くさい夫婦に
出くわしたもんだという顔をしたそうです。
ま、そりゃそうですよね。
事情聴取に行ったら漫才見させられたわけですから。(う)
posted by ポケット社 at 14:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | ポケット社通信 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月01日

ヒートテック

ようやくの春に、
冬の間ずっとはいていたヒートテックを脱ぐことができて、
太ももがズボンの裏地の感触を久しぶりに味わっています。
裾から入って迫り上ってくる風があると、
下半身が照れくさそうにむずむずします。
太ももからつくしが生えてきそうなそんな感じです。

中山さんからメールが来ました。
花見のお誘いでした。
今週末、世田谷のとある公園で開かれるそうです。
最近中山家にお邪魔してないのですが、もしかすると、
中山家は公園に引っ越したのかもしれません。
これは実は、花見に見せかけたホームパーティーなのか?
猫といっしょにダンボールで暮らす中山さんを想像してみると、
罪悪感がわいてきます。
ろくでもない場面を思い浮かべるものではありません。
失礼です。
メールにはまだ返信していません。
文面を読むと、来ませんか? という誘うものではなく、
あんたは来ることになってるから
場所と時間だけ知らせておくからねって感じだったので、
いそいで返信しなくてもまあいいかって思ってしまいました。
すみません。
中山さんのことだから、
もうすでに花見のつまみは何を作ろうか考えはじめているはずです。
静岡の魚屋さんに刺身用の魚を発注済みかもしれません。
失礼な想像をしてしまったことをフォローする意味も含めて言うと、
中山さんの料理はうまいんだよなあ。
上手に「おいしい!」って言えるかなあと
ドキドキしながら食べはじめても、
自然と口から「うまいですね!」が出るから助かるんです。

日ごとに春らしくなっていきますが、
でも、お花見ってずっと外にいるわけでしょう。
寒がりなぼくは、当日、
いちおうヒートテックはいていったほうがいいかもしれません。(う)
posted by ポケット社 at 12:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | ポケット社通信 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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