コピーライターの左ポケット

左のポケットからは
思いがけないものがでてきます
役に立たないけれど捨てられない
自分にだけたいせつなものです

「コピーライターの左ポケット」は
RADIO BERRY-76.4☆FM栃木の
日曜日22時からの番組「柴草玲のイヌラジ」の
小さなコーナーでした
コピーライターがストーリーを書き
柴草玲さんが音楽をつけながら朗読をしてくださり
5年の長きにわたって続けることができました
番組の最終回は2015年3月29日でした
お聴きくださった皆さま、このサイトを訪問してくださった皆さま
ありがとうございました

なお、原稿と音声のみをご覧になりたいかたは
裏ポケットへどうぞ ↓
http://02pk.seesaa.net/



2014年03月30日

上田浩和 2014年3月30日放送

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33

         上田浩和

閉店間際のバッティングセンターでバットを振っている客は、
彼女だけだった。
店を閉める準備をしながら耳をすませていたが、
バットがボールを叩く金属音は聞こえてこない。
打てないのも当然だ。
彼女が相手にしてるのは150キロのマシンなのだ。
プロを目指す高校生でもない彼女が150キロに挑むのは、
彼女の顔が長嶋茂雄だからだ。
彼女は、去年3月の33歳の誕生日に、
プロ野球の神様によって顔だけ長嶋茂雄にさせられた。
長嶋の監督時代の背番号は33。
その数字の偶然を大切にしなさいと神様に言われたそうだ。
彼女は長嶋の顔を持つ者としてのプライドで、
150キロの速球に立ち向かっていた。

受付を出て閉店を告げに行くと、
彼女がちょうどネットをくぐり抜けてくるところだった。
「おつかれさまです」と声をかけた。
汗で光らせた長嶋茂雄の顔を
かわいらしいピンク色のタオルで拭いたあと
「セコムしてますか?」と言いそうな雰囲気で全く違うことを話しはじめた。
「王貞治はホームランを打ってこそだけど、
長嶋茂雄は三振しても許されるの。
みんな長嶋には打って欲しいのに、三振してもなぜか喜ぶの。
そんな人ってほかにいる?」
元阪神の川藤の顔が咄嗟に浮かんだけど、
ここは黙っておいたほうがよさそうだ。
「顔が長嶋になってからは、
会社でミスしても笑っておけば許されたし、
仲が悪かった父親までが急に態度を変えた。
何をやらかしても必ず周りがフォローしてくれた。
長嶋って愛されキャラなのよ。憎らしいほどにね。
本当の自分は真逆だったからうれしくて仕方なかった。
でも、次第に許されることを前提にするようになってたの。
ばかよね。私。
許されるってなに? 相手に妥協を強いるってことなのにね。
それに気がついてからよ、ここに通うようになったの。
私も長嶋ならホームラン打たなきゃいけないの。
だから、300円貸して。もう小銭がないのよ」
「え、でも、もう閉店なんですけど」
「私、明日誕生日なの」
「あ、おめでとうございます」
「そうじゃなくて。明日34になるってことは長嶋の顔は今日までってことなの。
 長嶋のうちにケリつけたいのよ、自分自身に」
「さっきからなにワケ分かんないこと言ってんすか」
「ねえ。天皇陛下が観戦してくださったら打てそうな気がしない?
だって、私、長嶋茂雄だから。お呼びしてよ」
「天皇陛下を? 無理っすよ。メアドも知らないし」
「tennou@docomo.ne.jpじゃない?」

事務所の方で大きな物音がしたのは、そのときだ。
振り返ると事務所から出ていく大きな影が見えた。
明らかに怪しい。
「あれ空き巣じゃないの?」
彼女が小声でつぶやいた。きっとそうに違いない。
「早く追いかけなさいよ」と言いそうな雰囲気で彼女は
「セコムしてますか?」と言った。


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タグ:上田浩和
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2014年03月23日

細川美和子 2014年3月23日放送

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うそつき

     細川美和子

ほとんど二日酔いにはならない。
どんなにたくさん飲んでも、
眠りさえすれば、大丈夫だ。
でも、お酒を飲んだ翌朝は、
ゆうべお酒のチカラで
盛り上がってしゃべったことが
全部うそだった気がして、自己嫌悪におそわれる。
なんであんなに熱く語っちゃったんだろ。
なんであんなに調子に乗って
なれなれしくしちゃったんだろ。
自分がぜんぶ、うそでできている気がしてくる。
自分がぜんぶ、借り物の言葉でできている気がしてくる。
もう二度と、お酒なんて飲まない、と思う。
お水が一番、おいしいと思う。
これからは一生しらふで、
姿勢正しく生きていくんだ。
魚卵とか酒のあてばかり食べていないで、
サラダと玄米で、頭をクリアにするんだ。
本当に思ったことだけを、丁寧に慎重に伝えるんだ。
それでも、夕方になると、だんだんあの味が恋しくなる。
どこにもないあの味と匂いが、なつかしくなる。
お酒ができるまでの、長い道のりと時間を思う。
もう二度とお酒を飲まない、
と過ごした今日一日はうそだったことがわかる。
でも、夜のわたしは、
不思議と自己嫌悪には襲われない。
うそつきな自分を、おもしろいなあ、とにっこり思う。
そうして今日もわたしは、お酒を飲むのだ。


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2014年03月16日

小松洋支 2014年3月16日放送

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母と子

          小松洋支

その日はよく晴れていて、電車の中にも明るい陽が射しこんでいました。
お昼近い車内はすいていました。
こんなゆるやかな時間の流れている各駅停車の窓から
沿線のなんでもない風景を見るのが好きです。

線路に近いところまでせまっているアパートの2階に、
ミッキーマウスのタオルが干してあったり。
昭和のたたずまいのパン屋さんの前で、子どもが縄跳びをしていたり。
「川をきれいにしよう」という横断幕が、小さな橋にかかっていたり。
そういうのを見るとなんだか安らかな気持ちになるのです。

とある駅に着いたときのことでした。
乗りこんできたふたりが、向かいの席に座りました。
「あ、親子だな」と思いました。
面ざしが似ているのです。
母親はやせていて顔も細く、子どもは頬がふっくらしていますが、
目もとから鼻にかけてのつくりが、そっくりです。

電車が動き出すと、母親は巾着袋を開けてドーナツを取り出し、
娘に渡しました。
娘はドーナツを持ってしばらく眺めていましたが、
ふたつに割って半分を母親に差し出しました。
母親は笑ってそれを受け取りました。

けれども母親はそのドーナツを手にしたまま、
娘が食べるのを見守っていました。
娘が食べるように促しても、うなずくばかりでした。

「お母さんも食べな」
娘が何度目かにそう言ったとき、
母親はようやくドーナツの半分をふたつに割り、
時間をかけて4分の1を食べました。
でも残りはずっと手に持っていました。

やがて乗り換えの駅に着きました。
ホームに降り立って、動き出した電車をふりかえると、
窓ごしにあの親子が目に入りました。
ふたりは黙って、でもにこやかに正面を向いて座っていました。
ドーナツの4分の1は娘が手にしていました。

母親は70歳、娘は50歳くらいに見えました。

まだ冷たい風の中に、かすかに春の匂いがするようでした。


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妹からLINEで

妹からLINEでメッセージが送られてきた。
「中山さんから電話あったよ。」
中山さんがぼくの妹に直電とはなにごとだろうか。
「なんて言いよらした?」
とぼくが送ると、すぐに返信がきた。
「熊本弁のイントネーションについて聞かれた」
熊本弁のイントネーション?
そんなことならぼくに直接聞いてくれればいいのに。
まあ、ぼくも熊本を離れて20年近くなるので、
現地の最新の熊本弁がどんなものかは分からないけど。
「なんでおまえに聞かしたとだろかね」
と送ると、
「お兄ちゃんはなん言いよるか分からんて」
と返信が来た。
ああ。なるほどなるほど。
ぼくは基本的に滑舌が悪いのですが、それに加えて、
熊本弁をしゃべるときはやたら早口になるのです。
そんなぼくの熊本弁は、
中山さんにとってはちんぷんかんぷんなんでしょうね。
そして妹は、
「中山さんの留守電に、
熊本ラーメンたい!馬刺たい!と吹き込んだ」そうです。
なんだそれ。ケータイに向かって、熊本ラーメンたい!と
声を張り上げる妹を想像するとおかしくなった。
ここ数日の「もるとゆらじお」は方言にまつわる記事が多いので、
それに関係していることなのでしょう。
それにしても、中山さんはいったい何を企んでいるのだろう。
留守電に声を残させられたということは、
妹の声がラジオCMの一部として使われるのだろうか。
いやそれはないか。留守電の音質がラジオCMに耐えられるとも思えない。
でも、もしそうならギャラをふんだくらないといけない。
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2014年03月09日

宮田知明 2014年3月9日放送

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右利きに矯正された男

        宮田知明

私は、今でこそ右利きであるが、
こどもの頃は左利きだった。

食事のときは、母に、左手を輪ゴムでグルグルに巻かれ、
使えないようにされた。

欲しかった野球のグローブは、父が買ってきてくれた。
左利き用だと思ってはめてみたら、うまくキャッチできない。
なんと、右利き用・・・。
これも、右利き矯正のための両親の作戦だったのだろう。

特別、運動能力が低かった訳ではない。
でも、野球は上手ではなかった。
サードからファーストまで、ボールが届かないのである。
左手で捕って、左手で投げられたらいいのに、と思っていた。

体力テストで悔しい想いをしていたのは、遠投だった。
まず、右手で投げてみる。次は左手で投げてみる。
飛ぶ距離はほとんど同じ。クラスの平均くらい。
右手で投げた距離と、左手で投げた距離の合計で競うという競技があったら、きっとクラスで1位になっていたことだろう。

ボールを投げた後、あれ、いま左手で投げたな、
と気づくこともあった。
矯正されたとはいえ、左手も案外使うことができた。
左利きのままだった方が、もっと能力が発揮できたのではないか。
両親を恨んだこともあった。

そう思っていたある日、隣の席のクラスメイトから言われたことがある。
「お前、左手で消しゴム使えて便利だな」

右利きの人は、消しゴムを使うとき、一旦、鉛筆を置き、
そして消しゴムに持ち替えて消して、また鉛筆を持つ、
という大変効率の悪い動作をしているのである。

その点私には、鉛筆を右手に持ちながら、左手で消しゴムが使える、
という類い稀な技術が備わっていた。

そして、この能力は中華料理屋のアルバイトでも
活かされることとなった。
チャーハンをはじめ、様々な炒め物を作る上で、
重たい中華鍋をふり続けるのはかなりの腕力が必要だったが、
私は全く疲れをしらなかった。
右でも左でも、器用に鍋をふれるのである。
その能力が、店長の目に留まった。

何の才能もないと思っていた私。左右どっちの手もうまく使えることに
まさかこんな恩恵があるとは。
私の才能を高く買った店長は、私に料理の英才教育を施した。
そして、ある日こう告げたのだった。
「この店を、継いでくれないか・・・」


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:宮田知明
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2014年03月08日

わっ、柴草さんだっ!!



上の動画をご覧ください。
白いシャツ着て変な歌をうたっているのは三田超人(フリーマン)です。
ヒカシューというバンドのギタリストです。
話せば長いのでやめますが、ヒカシューは凄いバンドです。
でも曲のIQが高すぎて売れません。
そして、三田超人は変な人です。
変な人ですが、何といいますか、知り合いです、はい。
何の共通点もないですが、知り合いです。

昨日のことです。
三田超人のボーカルをさがしていたわけです。
ギタリストですが変な歌をうたうんですよ、自作自演で。
で、ちょっとなあ、この歌詞は公共的にどうなのよ、他のはないのかしら...と
さがしていたら上の動画が見つかったわけです。

あ〜、これもなあサンプルにならんよなあ...
ポッポーじゃねえぞ、フリーマン。
おおっ、そのモナリザでいいからさ、もうちょいまともに...と
祈る思いで見ていたら
突然割り込んできた映像が柴草玲さんですよ。
おおっ、第九だ!と思いきや、また別の女人が...
もう魔界ですね、こうなったら。魔界ですがかっこいいんですよ。
思いがけないところでお顔を拝見できてうれしいです。

あ、そうだ。
柴草さん、そういうおキモノがお好きだったら一枚お貸ししましょうか。
変なの持ってるんですよ、なぜか(なかやま)

タグ:柴草玲
posted by ポケット社 at 22:29 | Comment(1) | TrackBack(0) | ポケット社通信 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月03日

昨日も寒かった。

寒さが居座ってますね。
何度電話しても「延長お願いします」をくり返す
カラオケボックスの客みたいになかなか帰ろうとしません。
季節を一日にあてはめれば、今は夜明け前の5時くらいでしょうか。
そろそろ始発も出る頃なので、さっさと冬には帰ってもらいたいものです。
そのかわりに早く春が来ないですかね。
そしてずっと居座り続ければいいのにと思うぼくは、
自分が花粉症ではないからでしょうね。

昨日も寒かったので、
午前中をスタバで文庫本を読んですごしたあとは、
家に帰ってじっと映画を見ていました。
ポケット社の原稿でも書こうかと思いましたが、
締め切りまでまだ一週間以上あるからいいやと断念しました。
外が寒いと室内があたたかくてもなにもやる気が起こりません。
そんなとき映画はいいですね。
役者さんたちは、気温に関係なく再生ボタンを押すだけで演技してくれます。
一時停止ボタンを押せば、トイレに行く間待っててくれたりもする。
俳優という生き物はわがままという印象がありますが、
リモコンには逆らえないみたいです。
「砂漠でサーモンフィッシング」と「博士の異常な愛情」と「ラヂオの時間」
の3本を立て続けに見ました。
いちばん印象に残ったのは、
「ラヂオの時間」に出演していた
まだ若かりし頃の鈴木京香の胸の膨らみかな。
あのなかには春がたっぷりとつまってそうな気がしました。
ぼくの右手と左手の間では、
「触ってみたいね」「うん、触ってみたい」と
そんな会話が交わされていました。
あたたかくなったら、ダウン脱いでどこかに行こうっと。(う)
posted by ポケット社 at 20:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | ポケット社通信 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする